海外研修リポート 杉原 由希子さん(2016年度海外研修員)

音楽を、私の音、
そして言葉で伝えていく責任がある

氏名

杉原 由希子さん

所属楽団

日本フィルハーモニー交響楽団

楽器

オーボエ

研修年度

2016年度

研修先

マンハイム/ドイツ

指導者

エマニュエル・アビュール(マンハイム音楽大学)

自分を信じ開放し、心の声を素直に聴くこと

当財団の海外研修制度に応募したきっかけをお聞かせください。

誰もが考えることだと思いますが、オーケストラに入った時はつねに上を目指し私ももっと上手くなりたい!とそう願っていました。しかし、当時はただ漠然とそう考えていただけで、具体的なイメージ、ビジョンはなかったように思います。
オーケストラで経験を積み重ねるうちに、実際にどのようなプレーヤーになりたいのか、それが具体的に見えてきた時、このまま時を重ねることが怖くなりました。自分の先が見えていたからです。そのため、一度立ち止まり勉強する時間が欲しいと切に願うようになりました。

先生とそのレッスンから得たものとは。

私が、自身の音楽性と技術の限界を感じ、苦しんでいた時に出会った人がエマニュエル・アビュール氏であり、彼のもつ音楽性、技術面、人間性、そのどれもが長年私が探し求めていたものでした。彼の音の持つ力は、一音で世界を変えるほどの力があり、彼の音楽は、聴いている人を幸せにするものでした。レッスンを重ねていくごとに彼の偉大さがわかりました。
同時に私を導いてくださったのは、マンハイムのコレペティの先生でした。エマニュエルの言っていることを半分も理解できない時も、コレペティの先生が補ってフォローしてくださったり、「落ち込むことも今できないことも、それによって自分を攻撃する必要はなく、未来は必ずできるんだ!」と自分を大切にし信じることを教えてくれました。
自分を信じ解放し、自分の心の声を素直に聴くことで、私は楽譜からのメッセージを聴き取れるようになったと思います。エマニュエルはよく音楽の中に入れと言いました。『楽器を吹く』のではなく、『音楽がこうしたい!と言っている』、だからそれをする、その声を聴くんだ、と。

「音楽を楽しむ」ことから離れていたことに気づかされました

海外生活で大変だったことはありますか。

ドイツ生活で一番苦労したことは、なんといっても最初の手続きです。全ては言葉の壁からですが、ビザの手続き、保険、銀行、学校の入学手続き。私は年齢的な問題もあり全てうまくいきませんでした。
1人では本当に何もできず、いい大人が人に頼らないと何一つ満足にできない。そのことが凄くストレスでドイツは冷たい国だとすら考えてしまいました。
初めて外国人の気持ちがわかり、逆に、助けてくれる人の親切心がこんなにも有り難く、温かく感じたことは今まで経験したことがありませんでした。

日本との違いを感じることはありましたか。

日本との違いでまず感じるのは、日常に音楽が存在していること。それは皆がクリスチャンで幼い頃から教会音楽に触れていることも関係しているのかもしれませんが、みんな歌を唄うことも日常、学校の試演会にも地域の人が聴きに来るし、オペラがあればその地域の人たち中心にお洒落をしてその時を楽しむ。シーズンファイナルでは、会場全体が(プレーヤーも、観客も)労をねぎらって温かい拍手でいっぱいになる。
音楽はいい意味で娯楽であり、楽しむものである。
それが本来の形のはずが、音楽が私にとって『仕事』になってしまい、私自身、「音楽を楽しむ」ことから離れていたことに気づかされました。

そうして、音楽は何百年もの時間、代々受け継がれ、大切に育み、愛され、伝えられてきたもの。その伝統芸能を先生方は私にも伝えてくださっていると、そう感じました。 その情熱を私は忘れることはありません。

海外研修を終えて、どのようなことを感じていますか。

私が勉強できた時間は1年という短い時間でしたが、そこで出会った先生方、友達、親切にしてくださった方々、いろいろな人から多くのことを学びました。それは音楽面だけではありません。
この1年は私のターニングポイントであり、きっかけであり、ドイツで学べたことをこれからさらに掘り下げ、深め、勉強していきます。それと同時に私は、音楽を、私の音(演奏)、そして言葉でも伝えていく責任があると思っています。

ドイツで心を動かされた演奏会は数多くあり、素直に私は「クラシック音楽(芸術)は素晴らしい」と感動しました。
それは生の演奏でしか味わえないものだし、その時その場所でしか存在しないものです。オーケストラはもちろん、室内楽、ソロ活動も積極的に行い、少しでも多くの人にクラシック音楽の楽しさ、素晴らしさを伝えていきたいと思っています。そして後世に伝えていけたらと思います。

※2018年3月時点の内容となります。
※本文中の人名表記はご本人の言葉に沿って一部敬称略、また登場人物の所属等はすべて当時のものです。