海外研修リポート 蔵川 瑠美さん(2018年度海外研修員)

「自分が何を求められているのか」を考えるようになりました

氏名

蔵川 瑠美さん

所属楽団

広島交響楽団

楽器

ヴァイオリン

研修年度

2018年度

研修先

ライプツィヒ/ドイツ

指導者

ヘンリック・ホッホシルト

(ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団・コンサートマスター)

なぜ、海外研修員に応募したのですか?

大学生頃から留学して勉強することに興味がありましたが、就職を優先に考えたので、その機会が持てずにいました。

オーケストラに就職して10年ほどが経ち、学生の時よりも沢山の曲に触れる機会を頂き、それらの曲を作った作曲家達が暮らしたヨーロッパで勉強してみたいという気持ちが強くなりました。

申し込もうと思ったきっかけになったのは2017年に広島で開催された最後のアフィニス音楽祭でした。

ホッホシルト先生の隣で演奏させていただく機会があり、先生の弾き振りの企画でしたが、リハーサルに向けての先生の準備の入念さとコンサートマスターとしてメンバーを率いていくリーダーシップのすばらしさにカルチャーショックを受け、先生のもとで勉強したいと強く思いました。

研修中の課題は何でしたか?どのようなレッスンを受講しましたか?

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、バッハの無伴奏パルティータ、エチュードなどのソロの曲に加えて、オーケストラの中で演奏するソロパートや、演奏機会が多いけれどいつも疑問に思いながら弾いている曲(運命や第九など)の部分を取り出して先生がいつもどのように演奏しているか、ボーイングを付けるときの考え方などを教えていただきました。

ソロの曲に関しては、普段自分が音を出す上で気づかないうちに無神経になっていることを指摘していただいたり、練習曲一つでも、全体を構成する上でどんなことを考えるべきか、作曲家はどうしてほしかったかよく考えるようにアドバイスをいただいたりしました。

オーケストラの曲に関しては、あらかじめ先生がいつも使っていらっしゃるボーイング等を教えていただいてから、その曲が実際に演奏される演奏会を聴いたり、リハーサルを見学させていただいて、現場で演奏者同士が話し合っていた内容をあとで解説していただいたこともありました。

先生が普段行かれるところ(ホール、リハーサル室、学校、教会、オペラハウス、ご自宅など)に同行させていただき、ゲヴァントハウスオーケストラの一員として活動する先生が、どんなことを大切に生活されているのかお話を聞かせていただいたり日常を見させていただけたのもとても興味深かったです。

海外生活はどうでしたか?

海外で長期間生活するのは初めてで、はじめはとても怖かったです。ですが私が行かせていただいたライプツィヒはそんなに大きな都市ではなく、街をぐるりとトラムが一周していて主要な場所にはそれで行くことができます。

お部屋も街のとても便利なところにあったのでだんだんととても暮らしやすい街だなと感じるようになっていきました。

語学学校へ通って少しずつドイツ語が分かるようになってくると、パン屋さんやカフェのようなお店での店員さんとのやり取りや、路面電車の停留所で偶然あった方と会話したりするのが楽しくなっていきました。

ライプツィヒの真ん中にはバッハが長く働いたトーマス教会があり、演奏会がない時は自由に中に入ることができるので、考え事をするときなどはよく行って心を和ませていました。

研修を終え、自分の楽団に戻ってからの演奏にどのような変化がありましたか?また何を大事にしていますか?

以前は何をするにも自分がしっかり、強くいなければいけないという気持ちが強かったですが、帰ってきてからは、今自分がどんなことを求められているのか考えるようになったように思います。

分からないことがあれば、自分一人の解釈で何とかしようとせずに、指揮者や周りのメンバーと相談することも心掛けています。

帰国後最初のリハーサルで私の変化に気が付いた方がその変化を驚き、喜んでくださったのは私にとっても嬉しい体験でした。

ホッホシルト先生に何度も聞かせていただいたお話ですが、オーケストラはとてもたくさんの人が関係しているので、何か問題が起きても自分一人で解決できることはほぼありません。指揮者、メンバー、曲目などいろんな要素が複雑に関係しています。

なので、その時々、やるべきことは変わるということを念頭に置いています。

また、楽団に伝統的についているボーイングを見て、どのような意図でその弓がつけられているのかという視点から考察してみる機会が増えました。

弾きやすいという理由だけではなくそのボーイングをみんなで演奏したときにどのような効果が得られるのか、作曲家の意図はどうだったのだろう、いう観点で考えるようになりました。

海外研修を考えている方々へ一言!

留学をすることはいろんな意味でとても大変なことだと思います。

家族と離れてしまうことや、会社をお休みしなければならないなどそれぞれに様々な事情があり、あきらめてしまう方も少なくないと思います。

ですが、自分自身が行かせていただいて海外に身を置くことはそれ以降の自分の人生を大きく変え、選択肢を広げてくれることだと感じました。

手続きや準備はとても大変ですが、その何倍も素晴らしい経験ができると思います。

行ってみたいけれど、どうしようと悩んでいらっしゃる方は迷わずぜひともこちらの制度に申し込みをされることをお勧めいたします。

※2020年4月時点の内容となります。

※本文中の人名表記はご本人の言葉に沿って一部敬称略、また登場人物の所属等はすべて当時のものです。